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しかも、社内では絶対の権力者の立場にあるため異論を口にする幹部もいなくなる。 こうして自らの成功体験にもとづいて経営判断する結果、晩節を機すことになりがちである。
大成功した創業者にとって、自らの成功体験ほど危険な良はない。 ダイエーを築いたN氏、マクドナルドを日本市場で開花させたF氏など、その群を抜いた成功体験故に、時代の変化を見抜く目を狂わせた例は少なくない。
このような人生の終盤に襲ってくる危機を乗り超えてこそ、創業者は初めて神格化されるのである。 HS氏にせよ、I氏にせよ、この成功体験の良に無縁であったわけではなかった。
HもSも深刻な経営危機に陥ったのである。 ただ、両社は創業者の成功体験の絶対化という経営麻庫には陥らなかった。

HとSには、創業者のやり方を克服し、創業者以後の時代を切り開く力が内在していたということである。 その企業は単なる急成長企業という評判を超え「神話企業」として、その経営の卓抜性と永続性を評価されるようになる。
わが道を行くHとSはいかなる危機に陥り、それを脱したのであろうか。 成功体験の良を見るには、そもそも成功体験が成功者意識として創業者に取り付いていく過程を見なければならない。
親父は、僕を上の学校へやりたかった。 しかし、自動車屋になろうと決めていたから、余分な道は通らないと頑張ったんですね。
だって、大学へ行ったって、自動車の作り方がうまくなれるわけじゃない。 それで、東京の自動車修理屋へ入ったんだ。
(HS著「HSは語る」)S氏は、静岡県の光明村(現在天竜市)に、鍛冶屋を営む家庭の長男として生まれたが、決して裕福な家庭ではなかった。 父親が自転車屋に転業していた頃、目にした自転車業界誌に載った東京のアート商会という自動車修理業者に注目し、奉公に出ることを決意する。
小学校を卒業する前の話である。 HS氏とM氏は、ともに赤貧の幼少時から身を興して大実業家になった立志伝中の人物として対比されることが多い。
ただ、2人には明白な違いがある。 同じ丁稚奉公といっても、K氏が実家の倒産によってやむなく歩んだ不遇の道であったのに対し、S氏は、幼いながらも自らの意思で決断した道であった。
本音は、学校で勉強しても銭になりそうにないという点にあった。 手に職をつけるに限るという直感は、その後のS氏の成功の原点となった。
もっともこの選択には、いくつかのS氏の噌好が働いている。 学校が嫌いで機械いじりが好きであったこと。


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